あけたのか。

明けましておめでとう。というには少しばかり日が経ちすぎている。

元旦と二日の日は休みであったのだけど、今年の正月は家に両親がいる。かつ新しく始めた人間関係などもあり、なんやかんやと右往左往しおるうちに忙殺。忙しさに殺された形となった。三日からははや仕事、いきなりの夜勤でそれは今晩まで続く。

貧乏暇なしというやつだ。と言ってしまえば、衣食住満ち足りている今の自分は果たして本当に貧乏だろうか?明日の活計にも事欠く人など今の世の中たくさんいるだろう。そんな人を前にして、自分は貧乏であると言い切れるだろうか。特に切迫した事情もないのに貧乏を自称するというのは驕りではないか。そんな考えが頭を掠めるけど、正月からこれだけ働かなくてはならないというのは、やはり裕福でもないのだろうとも思う。

知らぬ間に明けそして過ぎた正月三が日。本厄の今年だけど、去年よりは随分いい正月だったように思う。

といった正月から遡ること約十日。

先月の21日。僕は旅に出た。とは大仰な言い回しだけど、行った先は現在住まうところから僅か200キロ程度の距離の名古屋。日帰り。

何が旅か、へっ、たかがその程度の距離で、しかも日帰り、はっ、片腹痛いわ。

との批難軽蔑侮蔑は甘んじて受け入れる。

しかし、誰がなんと言おうとこれは僕にとっては旅だった。

というのも、自分はほとんど今の定住地大阪から出ることがない。出るとしても自動車での移動。さらに寂しがり屋であることに加え人見知り、過度のめんどくさがりであることから、一人でどこか遠くに行くことなどここ数年皆無。

その僕が、一人でこの日はしかも電車で、しかもこれまでの人生で乗った記憶も曖昧な新幹線を利用して、会ったことのない人に会いに、一人で名古屋を目指す。これは自分的にはもう大冒険なのだ。今年本厄の男の言動とは到底思えないけど。

前の晩、22時まで仕事で、帰宅時23時をまわっていた。そこから食事を摂り風呂に入り、すぐに寝ないと明日起きれまいと思い、午前1時には布団に入るが、眠れない。楽しみというよりは、不安が立ち優った動悸に煩わされ目が冴える。

・・・いつの間に眠ったのだろう。気が付くと夜が白んでいて、新しい朝。

時刻は午前5時。家を出る予定の8時までには少し時間があるが、もう眠れない。

スマートフォンを操作して路線の確認などしつつ気もそぞろに時間を過ごす。

気持ち早めに家を出て、駅に着き、旅慣れた彼女の前日の助言通りみどりの窓口とやらを探す。

首尾よく窓口を見つけ、そこで何も知らない僕が名古屋に行くにはどうしたらいいか。11時頃に着けると有難いのだけど。と駅員に相談。

すると二つのルートを提示される。そのうちの乗り換えの少ない方を選び、切符の代金を支払い、駅に入る。

何だかいけそうな気がしてくる。ただ新大阪に着いてから新幹線に乗るまで6分しか時間がない。新大阪でお土産を買うつもりでいるのだけど、果たして新幹線の乗り口をしっかりと確認した上で、お土産屋を見つけさらにそのお土産群のなかから適宜喜ばれそうなお土産をチョイス、なんてことが6分で可能だろうか。

またも不安が頭をもたげる。変な時間に家を出たものだから、今いる駅で20分ほど待たなくてはいけない。この20分、新大阪で欲しい。そんなことを思いながら寒風のなか駅のホームに立ち尽くす。

ようやく待っていた電車が到着し、乗り込む。時間通り。

発車した電車は現在地からどんどん遠ざかる。速いね電車、楽だね電車、これはもらった。簡単じゃん。そう思って車窓から外を眺めていると、車内放送で、「濃霧のため10分程度遅れます」・・・はぁ?ちょっと待てよ・・10分遅れると、みどりの窓口で聞いた新幹線に確実に乗れないじゃないか。立ち込める暗雲。急に名古屋が遠のく感覚。

10分遅れて着いた新大阪。慌てて新幹線の時間を確認する。

なーんだ。新幹線ってめちゃくちゃ本数多いんじゃん。一本乗り過ごしたところで、すぐに次のやつあるじゃん。胸をなで下ろす。遅れたことで、かえって時間に余裕ができ、お土産もゆっくり選べた。

相手の方にやや遅れる旨をメールし、新幹線に乗り込む。人がいっぱい。

自由席を買っていたから座るところがない。仕方ないから、連結部に行き車窓から外を眺めようと思ったけど、窓が小さい上に新幹線が鬼速い。何も見えない。諦めて座り込んで文明の利器スマホをいじる。

京都でたくさんの人が降り、自由席にも空きができ、席確保。

持ってきた文庫本をうつらうつら読んでいるのか眺めているのか分からぬ体。

そうこうしているうちに着いた着いちゃったよ、名古屋。

旅の不安が解消されたら、次は人見知り発動。

どんな人なんだろう。上手く話せるだろうか。おっかない人だったらどうしよう。それよりも凄くつまらない人だったらどうしよう。間が持つだろうか。心配だ。不安だ。帰りたくなってきた。

相手の方に到着したとメールすると、桜通口で待ってますと返信。

どこだろう。あった。桜通口。安堵と不安が綯交ぜに。早く行きたい気持ちと逡巡する気持ちで一歩一歩。

といった旅の往路。

アキちゃんとの初顔合わせは次回。

不一。