くさくさするねぇ。

家庭に恵まれ、食うに困らない収入があり、それなりに趣味に使える時間もあって、一見どの角度から見ても幸せ。・・・なはずなのに、心に何か空白を感じる。いや、空白と言うよりは、雑草なども所々に繁茂し、風が吹く度に砂嵐が舞い上がるような荒涼とした土地。言うなれば荒野。

どんな成功に恵まれても、周囲の人間の愛情に満たされても、およそ人間に想像のつくあらゆる好環境にあっても、誰の心にもこの荒野はある。と思う。どうなの?

諸行無常、盛者必衰、愛別離苦、どんな人生もこれらの可能性を含んでいる以上、どれだけ今が良くとも、100%の喜びには達し得ない。得ることの裏には喪失。出会いの先に別れ。夢の外には現実。見え隠れする、裏、先、外。寒々しい風に似たこれらが、荒野に砂を舞い上がらせ、索漠とした気分にさせる。

荒野に負けじと種を蒔き、水をやり、肥料をまく。ここを一面の花で埋め尽くしたるわい。と意気込むも、花の世話をしている間にも広がり続ける荒野。

こいつとの追いかけっこ、潰し合い。

そういう側面も、あるよね、人生。

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「あゝ荒野」 2017年 日本 監督 岸善幸

前編後編併せて5時間超の長篇だ。

気持ちネタバレする。

容疑はなんだろう?傷害だったかな、で少年院にいた主人公。無事刑期を終え、出てきてみれば、仲間に裏切られ居場所がない。

しかし、少年院に入るきっかけになった傷害事件のときに、その当時の相棒を車椅子で生活しないといけなくなるまで叩きのめした相手に復讐しないわけにはいかない。と、探してみると、その男はボクサーになっていた。

ボクシングなら、殴り殺しても罪に問われない。よっしゃボクシングや。

の主人公が、主人公1。

主人公2は、理髪店で修業中の31歳。気は弱いが身体、力は強い。

彼には吃音症という病気があって人とうまく話せない。うまく話せない理由はそれだけではなく、彼の複雑な家庭環境に起因するものも大きく作用していた。ダメで孤独で、誰からも必要とされない自分を変えたくて、ある日街頭でもらったビラを頼りにボクシングジムを尋ねる。ここでふたりの主人公が出会う。

二人とも心が荒れてる、荒野が広い粗い。

かたや復讐で相手の人生を変えてやろうと目論む者、かたやこれまでの自分を超えて変えてやろうと思う者。

二人の物語は凄絶な終焉に向かって動き出す。

ラストシーン。エンドロールが流れる前にゴングが一つ。

一度だけ打たれるゴングで、試合の終了を想像する人は少ないだろう。ということは次のラウンド。もしくは次戦の開始、新たな荒野の始まり。

良い終わり方だったな。何となく物語の収束具合、撒き散らした伏線の回収に少し消化不良を感じるけど、良い作品だったことに違いはない。


不一。